香りのはなし|Original Fragrance

五感で感じるお店へ

よいお店とは、どのようなお店だろう。

私たちは、長い間その問いを考え続けてきました。

お店を営むなかで、このことを考えるたびに思い出す場所があります。

まだお店を始めるずっと前、社会人になったばかりのころ。私たちは、ある島を旅していました。

その日、目当てにしていたご飯屋さんは満席で入れず、歩きながらランチを食べられるお店を探していました。

そんなとき、ふと目の前に現れたのが、古民家を改装した小さなアメリカンダイナーでした。

扉を開けると、ヴィンテージの家具や雑貨が並び、壁にはポスターが飾られています。オーナーご夫妻はロカビリーな装いで、髪型まできっちりとスタイルを整えていました。

店内にはロカビリーミュージックが流れ、そのリズムに包まれながら運ばれてきた料理や飲み物は、空間の雰囲気と驚くほど自然に溶け込んでいました。

まるで映画のワンシーンに入り込んだような、不思議な感覚でした。

奥から走ってきたお子さんたちも、髪型から服装までロカビリースタイル。その姿を見た瞬間、このお店の世界観は飾られたものではなく、ご家族の暮らしそのものなのだと気づきました。

目に映るもの、耳に届く音、口にするもの、そこにいる人たちの装い。そのすべてがつながり、ひとつの世界をつくっていました。

五感で味わったその体験は、今も鮮やかに心に残っています。

あのとき感じたのは、「よいお店」とは、単に商品やサービスが優れている場所ではなく、そこに流れる空気や時間までも含めて、ひとつの世界として成立している場所なのだということでした。

Branica Republicもまた、そんな場所でありたいと願っています。

目に映るものだけでなく、音や香り、肌で感じる空気まで。そのすべてが調和し、訪れた方の記憶に残るお店へ。

五感で感じられる表現をひとつひとつかたちにしていくなかで、私たちが次に向き合ったのが「香り」でした。

もしブラニカの世界観を香りとして表現できたなら、その場所で過ごした時間を、より深く記憶に残せるのではないか。

そうして私たちは、香りという新しい表現に向き合うことになりました。

 

架空の国を、香りにする

ものを大切にする人々が暮らす、架空の国。
それが、Branica Republicです。

2015年の春に生まれたこの名前は、お客様から大切なものをたくしていただき、それを次の方へとつないでいくなかで、少しずつ現実の姿を持ちはじめました。

お洋服が並ぶ店内。
そこに流れる音楽。
交わされる言葉。
お客様とともに積み重ねてきた時間。

お店をひらいてから4年が経つころには、輪郭のなかった架空の国が、店内の風景や音楽、お客様と重ねた時間によって、少しずつ姿を現していました。

それなら、この国の空気も、香りとして表現できるのではないか。

制作をお願いしたのは、高知県の自然豊かな場所にアトリエを構え、植物由来の天然香料を用いて香りをつくられているATELIER ESSENCE(アトリエエッセンス)さんです。

Branica Republicがどのような場所で、どのような人々が暮らし、どんな空気が流れているのか。私たちが思い描いてきた世界をお伝えし、そのイメージをひとつの特別な香りへと仕立てていただきました。

完成した香りがそっと店内に広がったとき、異国を思わせる空気が立ち上がり、架空の国がまたひとつ現実に近づいたような感覚を覚えました。

香りは、空間を静かに包み、その場所の印象を深く残してくれます。

ブラニカの香りを通して、訪れた方に、この国の空気まで感じていただけたら。そんな思いを込めて、実店舗4周年のオープンデーより、この香りをお客様へお届けするようになりました。

 

ゆるやかにつづく余韻

コース料理をいただくと、一皿一皿のつながりや全体の流れのなかに、シェフの意図を感じることがあります。

最後の一皿を味わい終えたとき、それまでの印象がひとつにつながり、心に余韻が残る。

Branica Republicで過ごす時間も、そんなふうに楽しんでいただけたらと考えました。

扉を開け、店内の空気に触れる。ゆっくりと巡りながら一点もののお洋服と出会い、その背景を知る。手に取り、袖を通し、会話を重ねながら、自分に合う一着を探していく。

そうした小さな場面がつながり、ひとつのお買い物の体験をつくっていきます。

選んだものを包み、お渡しするところで、お買い物はいったん終わります。

けれど、コース料理を味わい終えたあとにも心地よい余韻が残るように、お店での体験にも、その時間をゆるやかにつなぐものがあってもよいのではないかと考えました。

その役割を担うのが、香りです。

現在は、ショップカードにブラニカの香りをそっと纏わせ、お客様へお渡ししています。

手渡した瞬間の香り。
お店を出てから、少しずつ変化していく香り。
ご自宅へ戻り、カードを手に取ったときにほのかに残る香り。

小さなカードとともに、ブラニカで過ごした時間が、扉を出たあとまでゆるやかにつながっていきます。

目には見えないからこそ、体験の最後に静かな余韻を添えるもの。ブラニカの香りには、そんな役割を込めています。

 

よいお店とは、どのようなお店だろう。

 

いつかどなたかの記憶の中で、あの島のダイナーが私たちにくれたような時間として、残ってくれたら。