もう一度、物語の続きを。
お店をひらいてから2年が経つころ。私たちは、行き場を失ったお洋服たちを前に、頭を悩ませていました。
日に焼けてしまった服。
色あせてしまった服。
修復することが難しくなった服。
大切にされてきたからこそ、まだまだ着ることができる。けれど、そのままお店に並べることはどうしても難しい。
そんなお洋服を前にしても、私たちは、次へつなぐことをあきらめきれませんでした。
どうすることもできないまま、少しずつ集まっていく、行き場のないお洋服たち。もう一度、誰かに着てもらうためにはどうしたらよいのだろう。考え続けた末にたどり着いた答えが、染め直すことでした。
リネンのワンピースやブラウス。
コットンのコートやシャツ。
ご縁のあった染工房の手によって、新たな色へと染め直すことで、お洋服はもう一度、物語の続きを紡ぎはじめます。
新しい色をまとったお洋服たちにつけた名前は、〈encore(アンコール)〉。こうして、Branica Republicのアップサイクルによるオリジナルプロダクトが生まれました。
一度は役目を終えたように見えたお洋服たち。深く下りた幕が、今、ふたたび上がります。

染めることで現れる、一点ものの表情
はじめてencoreとして染め上がったお洋服を手にしたとき、驚きと感動で胸がいっぱいになりました。
藍染めや草木染めなど、後染めされた服はこれまでにもたくさん見てきました。けれど、私たちにたくしていただいたお洋服がencoreとして生まれ変わった姿には、これまでとは違う、心を揺さぶるものがありました。
リネンやコットンの生地は、深く美しい黒へ。一方で、ポリエステルの糸で縫われたステッチは染まらず、もとの色を残します。染め上がった生地の上に浮かび上がるステッチは、想像していた以上に表情豊かでした。
特に、細かなピンタックや小さなピッチで施されたステッチは、黒い生地の上でより鮮明に映え、これまでとは異なる魅力を見せてくれます。異なる繊維を組み合わせた混紡糸は、想定していた色とは違う色に染まることもあります。
ボディと同系色に染まる刺繍。
美しく色づくレース。
うっすらとだけ染まったボタン。
もとの生地の色や素材、染料との相性によって、わずかにネイビーを帯びるものもあります。どのように染め上がるのかは、最後まで分かりません。だからこそ、ひとつとして同じものはなく、それぞれが世界にひとつだけの表情を持っています。
時間を重ねた跡を消して新しくするのではなく、それまでの姿を残しながら、新しい魅力を引き出していく。
偶然によって生まれる色や質感もまた、encoreの大切な個性です。

〈encore〉を象徴するもの
数か月に一度、染め替えられたお洋服が並び、店内には少しずつencoreの世界が広がっていきました。
encoreを楽しみにしてくださるお客様も増え、あのとき、行き場のないお洋服たちをあきらめなくて本当によかった。そう感じる日々でした。
その時間を重ねるうちに、次第にある思いがふつふつと湧き上がってきました。
encoreの取り組みに込めた思いを、言葉だけではなく、目に見えるかたちとして残したい。そんな思いから、陶芸家の中嶋寿子さんに、encoreの世界観を象徴するオブジェの制作をお願いしました。
中嶋寿子さんは、石川県を拠点に活動されている陶芸家です。細かな土を重ねて形づくられる作品は、化石や発掘品を思わせるような不思議な質感をまとい、他に類を見ない独自の世界観を生み出しています。
突然の問い合わせにもかかわらず、中嶋さんは快くお店へ足を運んでくださいました。
Branica Republicのこと。encoreが生まれるまでの背景。役目を終えたように見える服を、もう一度つなぎたいという思い。時間をかけてじっくりと耳を傾けていただきました。
お話を終えたあとも、店内をゆっくりと巡りながら、ブラニカの空間をつくるものを、ひとつひとつ確かめるようにご覧になっていた姿が印象に残っています。
そして完成したのが、世界にたったひとつのオブジェです。
作品名は、その名も「encore」。
役目を終えたお洋服たちの幕が、今ふたたび力強く上がっていく。作品と対面したとき、そんな光景が心に浮かびました。
現在は、〈encore〉のお洋服たちを静かに見守るように、店内に飾られています。

そして、赤へ
encoreのおひろめから1年が経ち、Branica Republicは3周年を迎えました。その間にも、たくさんのencoreのお洋服たちが、お店から新しい持ち主のもとへと旅立っていきました。
新たな色をまとったリネンやコットンの生地。
染まったボディに浮かび上がるステッチ。
うっすらと色づいたボタン。
予想することのできない染め上がりを、お客様が私たちと一緒に驚き、喜んでくださったことを、今でもよく覚えています。
そして迎えた3周年。encoreの新しい挑戦として、黒に続く新色をつくることにしました。
選んだ色は、赤。ひと口に赤といっても、口紅やネイル、りんご、薔薇、夕日など、思い浮かべる色は人によって異なります。
Branica Republicの赤とは、どのような色だろう。半年ほど悩み、最後に思い浮かべたのは、encoreを手に取ってくださるお客様の姿でした。
染工房にお願いし、オリジナルの色として調色していただいたのが、深いワインを思わせる「ブルゴーニュ」です。
鮮やかすぎず、わずかに紫を含んだ奥行きのある赤。長く大切に着ていただける色であることを願い、encoreの赤として選びました。赤く染められるお洋服は、素材やもとの色によって限られます。そのため、ブルゴーニュのencoreをご紹介できるのは、半年から1年に一度ほど。
黒とはまた異なる表情をまとったお洋服たちが、新しい物語のはじまりを待っています。

洋服から、アクセサリーへ
encoreの世界は、やがてお洋服からアクセサリーへと広がっていきました。
日に焼けたレザージャケットや、ほつれて使うことのできなくなったレザーブーツ、傷んでしまったバッグ。長く大切に使われてきた革には、時間を重ねたものだけが持つ、豊かな風合いが残されています。その革のかけらを集め、ブローチとイヤリングへと仕立てました。
制作に力を貸してくださったのは、金沢市新竪町のレザーファクトリーショップ「ベンリーズアンドジョブ」さん。アクセサリーの裏側には、革製品をつくる際に生まれた端材が使われています。
アクセサリーを収める小箱は、石川県加賀市の「イロイロコハコ」さんに制作していただきました。フランスのリサイクル紙から出る端材を生かし、蓋には中嶋寿子さんによるencoreのオブジェをもとにしたシンボルをあしらっています。
使われる革の部分や箱の色によって、それぞれに異なる表情が生まれます。一度は役目を終えたレザーアイテムも、姿を変え、ふたたび誰かの日常へとつながっていきます。
こうしてencoreの世界は、お洋服からアクセサリーへ、少しずつ広がっていきました。
encoreのアクセサリーは、店頭限定でご紹介しています。

物語の続きを纏う
encoreは、新しいものを一からつくるためのプロダクトではありません。
すでにあるものを見つめ直し、残された魅力をすくい上げ、もう一度、次の人へつないでいくための取り組みです。
色あせや日焼けがあっても、服そのものの価値が失われるわけではありません。上質な生地。丁寧な縫製。美しいシルエット。そこに新しい色を重ねることで、それまで気づかなかった魅力が浮かび上がることがあります。
新たな装いをまとったものたちは、それぞれに次の物語のはじまりを待っています。誰かのもとで大切にされてきたものが、encoreを通して、ふたたび誰かの日常へ。
一度下りた幕が、もう一度上がるように。
物語の続きを纏うような出会いを、お楽しみいただけましたら幸いです。